• 2009.03.21 Saturday
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 壊れた輪は幾つものリングをその連鎖から落とした。
 しかし、その輪はまだ別の輪に繋がっている。
 そう、壊れながらもまだ、連なっていたのだ。


 モーグへと戻ったイットは依頼主である新聞記者に経緯を伝え、証拠となる書類を渡した。
 そして、自分の名は伏せてもらうように頼み、パーティーとしての最後の依頼を終らせたのだ。
 イットはモーグの街で一晩過ごした。

 翌日。
 イットはモーグの北東に密かに設置された飛空庭の発着場へと足を運び、航路を仕切る商人と交渉して天まで続く塔へと連れて行ってもらった。
 そして、聳え立つ天まで続く塔の扉を開き、広いエレベーターホールへと足を踏み入れた。
 入口の側にある端末のボタンを押し、下へ――故郷であるドミニオン世界へと向かう。
 次元転生。
 異なる次元に存在するエミルの世界とドミニオンの世界。
 この二つの世界を行き来する時に、レベルと呼ばれる自分の身体能力等の変化の事を総称して、そう言うのだ。
 大した時間を置かずに、エレベーターは動きを止め、その扉が開かれた。
 赤い空、黒い大地、砂の海。
 そのどれもが懐かしい。
 イットはドミニオン世界に戻ってきた事を実感し、一歩踏み出して階段の下に目をやった。

「な、んで――」

 そこにいる男を見て、イットは思わず呟いた。
 白いシャツの上に黒いコートを羽織った、黒髪のエミル――ルークが、そこに立っていた。

「……イットか」

 何故、ルークがこの世界に居るのか。
 何故、ルークがこの場所に居るのか。
 何故、何故、何故。
 幾つもの疑問がイットの頭を駆け巡り、混乱しているイットに向けて、ルークは更に混乱させる言葉を放った。

「お前がここに居るって事は、ファーナを殺したんだな」

「なんで、お前があいつの名前を知ってるんだ!!」

 ルークの言葉に、イットは思わず叫び返した。
 混乱し続けるイットを他所に、ルークは簡潔に答えた。

「今日、この時間、この場所で会う予定だったからな」

 そういってイットを見据えるルークの瞳は冷たく、友情などなく、ただそこにあるものを見ているような目つきだった。

「さて、復讐を成し遂げたわけだが、お前の気は晴れたのか?」

「……いや」

 ルークの問いに、イットは目をそらして言った。

「まだ、何か胸にしこりのようなものが残ってる。そんな感じだ」

「だろうな」

 イットの答えを聞いたルークは、イットの足元に向けて幾つかのアイテムを投げた。
 転がってきたのはレプリカのマスケットライフルと実包、それに簡単な衣服。
 この世界にやってきたエミルの世界のガンナーが、最初に身に着けるであろう装備だ。

「どうせ真っ当な準備なんてしてないんだろ」

 そんなルークの言葉を聞きながら、イットは足元に転がってきたアイテムを拾い上げる。
 ライフルの簡単なチェックを行い、一発だけ実包を装填し撃つ事で弾がしっかり出ることとを確認する。
 そして与えられた衣服を着て、階段を下まで降りきった。
 十数歩。
 それだけ歩けばルークの目の前に立てるが、そこまで歩く必要がイットにはない。
 同様に、ルークもそんな事は望んでいなかった。

「……さて、聞きたい事、知りたい事があるだろ? 俺が知ってる事は教えてやるよ」

 そういって、ルークはイットに質問を促した。

「……ルークは、あいつとどこで知り合ったんだ?」

「それはお前の知りたい事じゃないだろ」

 イットのした質問を、ルークはあっさりと切り捨てた。

「なんで、ここであいつと待ち合わせしてたんだ?」

「それも違う」

「なんでルークはこっちの世界に来たんだ?」

「それも違う」

 思いつくままに口を開くイットの問いを、あっさりと切り捨てていくルーク。
 そんなルークに疲れたのか、投げやりにイットは言った。

「なんでシズが死んだんだよ」

 その問いを待っていたのか、ルークは微かに笑ってから言った。

「そのシズって人がある病気にかかったモンスターに傷を負わされたからだ」

 あっさり言い放ったルークの言葉を理解できず、イットは固まってしまった。
 そして数秒後、その言葉の意味がようやく理解できたイットは言った。

「なんで病気持ちのモンスターが村に入れたんだよ。それに、その病気がどうして死に繋がるんだ」

「モンスターは村に侵入したんじゃない、村の中に現れたんだ。正確に言うと、村人がモンスターになった、と言うべきだな」

「なん、だ……と?」

 驚き、言葉を失うイットに、ルークは言った。

「モンスターから人へと感染する――人が、モンスターになる病気」

「……な、何を馬鹿な。そんな、そんな病気があるならとっくに人間は滅びてるはずだ」

 イットの言葉に、ルークは静かに首を横に振った。

「治療薬はすでにできているし、紋章を宿していれば自然と抵抗できる程度のものだ。それに――」

 一旦言葉を区切り、ルークはイットの方へと視線を向けた。

「この病気には、幾つかの特徴がある」

 哀れむような、そんな目をしながらルークは続けた。

「一つ。モンスターに傷を負わされなければ感染の心配はないこと」

 ルークの言葉を聞きながら、イットは二年前の事を思い出していた。
 あの時、イットが住んでいた家にはシズと親父さんが居た。
 親父さんは、何日か前に狩りに出かけた時、モンスターによって傷つけられながらも、何とか帰ってきた。
 そして、偶然村に滞在していたヒーラーに傷を癒してもらったはずだ。

「一つ。発症し始めると、完全に発症するまで患者は眠り続ける。その際、病が進行しているのか、時折苦しんだ様子を見せること」

 それは、あの時の親父さんの病態そのものではないか。

「一つ。発症しモンスターとなった時、そのモンスターも同じ病を感染させる能力を保有する」

「…………」

 黙って俯いたイットを、ルークは哀れむように見ながら言った。

「当然のごとく、理性なんて残ってない。目の前に人間が居るのなら、本能で襲い掛かるだろう」

 二人の間に沈黙が下りる。
 呆然と立ち尽くし、ただ言葉を聞くばかりのイットに向けて、ルークは言った。

「発症したモンスターに襲われ傷を負った女性は、村に来ていた吟遊詩人に話を聞いて、騎士に頼んだそうだ。『自分を殺してくれ』ってな」

「――嘘だッ!!」

 大きな声で叫び、イットは言った。

「彼女が――シズが、そんな事を言うはずがない! それに――お前が、その時の事を知ってるはずがないだろ!!」

 そんなイットの叫びを聞いたルークは、嘆息してから言った。

「研究者達の護衛。俺が、エミルの世界で最後に引き受けた依頼だ」

「……それがどうしたって言うんだ」

 ルークの言葉の真意を読み取れなかったイットが吐き捨てるように言った。
 そんなイットの様子を見て、ルークは呟いた。

「……なんだ、覚えてないのか」

「なんだと?」

 何かを見落としている。
 そう告げるように呟いたルークを睨むように、イットは言った。

「ノーザン方面で発生した病気の研究のために、研究者達が出向いたんだ」

「だからそれがどうした」

「……この病気は何かしらの情報を持つ者が知らせなければ、知られる事はないはずなんだ」

 誰かが集団の中で発症してその集団を滅ぼしたとしたら、その集団が行方不明になるだけでその理由は不明となる。
 逆にその時誰かが生き延びて他の誰かに伝える事ができたのなら、その理由は容易に判明する。

「ま、簡単に言ってしまえば情報の提供者が居たわけだが」

 力を抜くようにそういったルークは、まだ状況を理解していないイットへと視線を向けた。

「カウズっていう男が情報提供者だ」

「カウズ……?」

 イットの言葉にルークは頷いた。

「今から二年以上前になるが、あるドミニオンの狩人がカウズって男の住んでいた村から姿を消したらしい」

 それはイットの知らない物語。

「その村は新しい商人に村に来てくれるよう頼んだばかりだった」

 イットがあの村を出てから、村で起きた物語。

「村で一番の狩人だったドミニオンの男が居なくなり村人達は動揺しただろうな。下手したら商人との契約もなかったことになるかもしれなかったからな」

 イットが居なくなったから、イットが村を出たからこそ起きた出来事。

「村の狩人達は頑張った。いなくなった男の――男達の分もしっかりと働いた」

「……」

「例え怪我をしようとも、村を生き延びさせるために頑張った。そして――頑張りすぎてしまったんだろう、な」

 空を仰いだルークは大きくため息をつき、視線を戻して言った。

「ある日、モンスターに傷つけられた狩人が村へと戻り治療を受けた。その身を、病魔に冒された狩人が」

「……まさか」

「その村も災難だったな。そんな病気があったから村一番の狩人を失い、また同じ病気によって滅んでしまったのだから」

 言葉を失い立ち尽くしたイットから、ルークは静かに視線を外した。

「カウズは一度冒険者になった身だったから、生きてノーザンプロムナードに辿りつく事ができた。そのおかげで、今ではその病気の対策は十分にできるようになったのだから良くやった方だろう」

 呟くように言ったルークはイットに背を向け、テントの側に立つ女性へと手を振って合図を送った。

「……お前は、どうして――」

「ファーナが何故冒険者なんてやっていたか、知ってるか?」

 ルークの背に問いかけるイットに、ルークは振り向く事無く言った。
 ルークの言葉にイットは答える事ができず、首を横に振った。

「『人のためになる事をやりたい』って、彼女は言っていたよ。村の護衛も、害を成すモンスターの討伐も、根底にあるのはその言葉だ。もっとも、最後に受けた依頼は仲間のため――自身が抜けた後の事を考えて、なんだろうけどな」

「……」

「俺は彼女と共にありたいと思っていた。彼女と共に歩みたいと思っていた」

 それはもう叶う事のない思い。
 イットの手によって閉じられた物語の続きを、ルークは望んでいたのだ。

「ドミニオンの世界の現状は知り合いから聞いていた。次元転生の事も聞いていた。この世界なら、彼女と共に歩めるって、思ってたんだ」

 次元侵略者に襲われ危機に陥っているドミニオンの世界なら、人のためになる事なら幾らでもある。
 例えそれが命を賭ける事になる仕事であろうとも、ファーナなら――ファーナとルークなら、厭う事なく全力で挑むだろう。
 そして異なる次元を移動する事で起きる次元転生は、二人の間にあったはずの経験の差をほとんど0にする事ができる。

「この世界に来た理由? ファーナと共に歩むため以外に何がある」

 ルークの体から漏れ出した魔力が、淡い燐光を放つ。

「人を殺めたその罪を償うため、人を殺めたその手でより多くの人を救うため」

 ただ立ち尽くすだけのイットに向けて、ルークは語り続ける。

「死ぬ事が分かっていても走り続けた彼女を殺したお前を」

 振り向き右手をイットへと向けて、ルークは言った。

「俺は、許さない」

「――ッ!」

 殺気を感じ、イットは右へと飛んだ。
 直後、イットが立っていた場所で小さな爆発が起こった。
 エミルの世界に居た頃なら、わずかばかりの怪我で済むような小さな爆発だったが、ドミニオンの世界へと来たばかりのイットに直撃していたら、致命傷となりえる程度の爆発だ。

「……本気、なのか」

「戯れで人を殺すような事はしない」

 イットの呟きに答え、ルークは今の一撃を避けたイットに口を歪めるように笑って言った。

「さぁ、生き延びる事を望むなら戦え。戦い、俺を殺して見せろ」

「そんな事――」

 確かな殺気を感じながらも、イットは震えていた。
 恐怖を感じたわけではない。
 ただその心が発する声があまりにも大きくて、ただその感情を整理する事ができないだけで。

「そんな事、できるわけないだろ!!」

 心の底から迸る感情をそのままに叫んだ。
 エミルの世界での数少ない友に届けと言わんばかりに――自らの思いを伝えるために。
 だが、そんなイットの思いはルークに届く事はなく、

「だったら、ここで死ね」

 非情な宣告と共にルークの右手が振り下ろされ、イットの周囲に幾つもの魔力の刃が降り注いだ。
 反射的に防御の姿勢を取るイットの身体を斬り、周囲の大地を穿ち粉塵を巻き上げる。
 僅か一秒にも満たないその攻撃を凌ぎきったイットはルークへと視線を向けた。
 その身体に纏う魔力を、その顔を見て、イットは呟いた。

「……本気、なんだな」

 答える言葉はなく、その態度でもってルークは雄弁に語っている。
 だとしたら――と考えたところで、イットの思考は停止した。
 ここでルークに立ち向かう理由が、イットには見つからなかったのだ。

「夢幻は無限、無限は夢幻」

 立ち尽くすイットを他所に、ルークの詠唱の声が聞こえる。
 何故自分がここに居るのか、イットは考えていた。
 復讐を果たした事でエミルの世界に居る理由を失い、祖国へと逃げるように戻ってきたイット。
 それを待って居たかのように立ち塞がるルーク。

「夢幻の覇は無限の刃、無限の破は夢幻の刃」

 ルークの口から語られた言葉が嘘ではないと、イットの身体は理解していた。
 あのパーティーに参加した時、最初から仲間として扱ってくれたのは仇であるファーナだけだった。
 それはパーティーメンバーがイットがあの村に居た事を覚えていたから、というのもあるのではないだろうか。
 あの時、村の外ですれ違った騎士の、ファーナの首に掛かっていた首飾り。
 それと同じものがシズの墓にかけられていた事。
 それをあのパーティーの所為で、ファーナの所為でシズが死んだと考えたのは早計だったのだろうか。

「現と夢幻の狭間を越え、現に夢幻の覇を呼ばん」

 取り返しのつかない現実。
 イットがした事は現実で、どうやっても取り返す事はできない。
 ファーナの、かのパーティーの騎士のように、別の誰かを――より多くの人を助けるために行動したわけでもない。
 あのエミルの世界に居る理由を失ったから、この世界に戻ってきただけでしかない。

「過ぎし力の代償として、我はこの腕を捧げよう」

 そう言って、ルークは左腕をイットへと向ける。
 ルークの唱えていた呪文を、イットは聞いたことがない。
 故に、これからどのような事が起きるのかは想像もできない。
 同様に、どうして良いのか、どうしたいのかさえ分からない。

「それは全てを切り裂く夢幻の剣、それは全てを断ち切る無限の鍵」

 ルークの体から漏れ出していた魔力が左手へと集まり、その腕に幾重もの魔法陣を展開する。
 一般的な、スペルユーザーにならないドミニオンと同じ程度の魔力しか持たないイットにも視認できるほどの濃い魔力。
 その魔力が解き放たれる瞬間を待ち望み、展開された魔法陣を通る度に増幅され、ルークの左腕は数多の刃で突き刺されたかのように裂傷が刻まれていく。

「全ての円環を閉じ、運命を終焉と導くその力」

 自身の魔力によってズタズタに切り裂かれたその左腕は、多分二度と使えないだろうとルークは考えていた。
 こんな呪文を使うのは、自分のスタイルではない事を重々承知した上で。
 それでもなお、この呪文を使う事によって、自分が望む結末を得るために――ルークは、この詠唱を完結させた。 

「――顕現せよ、《運命を断つ夢幻の刃》」

 瞬間、嵐のような風がイットに向かって吹き付けた。
 ルークの完成させた魔法から放たれた無数の刃は、ルークの腕をも切り裂きながら、荒れ狂う風となってイットに吹きつけた。
 無数の刃は、イットの身体を斬りつけ、切り裂き――無数の裂傷を刻んだ。
 吹き抜けた風は、イットの体から血液と共に体温をも奪っていった。
 しかし、それでも――それでも、イットはまだ立っていた。
 咄嗟に頭と首を守るように腕を上げ、その身体の至る所に傷を負い、血を流しながらもまだ、立っていた。

「……これでも、生きてるのか」

 大きなため息を一つ吐き、ルークはイットの方へと一歩踏み出した。
 体中から血を流しながら立ち尽くすイットに、もう抵抗する力はないと考えたわけではない。
 ファーナを、彼女を殺した者の死に様を目の前で見たい、なんて考えていたわけでもない。
 彼女を殺した者を、この手で殺したい。
 そんな思いを持っていないとは言い切れない。
 ただ、ルークには……それ以上に相応しい復讐の方法を思いついていた。

「…ゃ、………ぃ」

 小さく、呻くように呟くイットに手を伸ばせば触れれる距離まで近付いたルークは、ゆっくりと無事な右手を握り締め、そこに魔力を集めた。
 イットは、先ほど渡したライフルをまだ手に持っていた。
 それを確認し、心の中で小さくため息を吐き、

「――これでお別れだな」

 そう言って、拳を振り被り――イットの頭を目掛けて、振り抜いた。
 直撃したら、右手に込められた魔力が放たれてイットの命を奪うだろう。
 もしそうなったら――自分にできる事をやり抜くと、ルークは心に決めていた。
 そんな思いを乗せて放たれた一撃は、イットの頭を砕く事なく空を切った。
 ガチガチと震える歯がぶつかる音が聞こえる。

「……だ、………く、ない」

 ルークの左腕の方へと、わずかばかりに移動して拳を避けたイットはルークの頭に、ルークの左目の辺りに銃口を突きつけながら震えていた。

「いや、だ……しにたく、ない……」

 ルークの瞳が、イットの指の僅かな動きを捉えた。
 それは「死にたくない」と呟くイットが引き金を引こうとしているものだった。
 その動きを確認し、ルークは全てが自分の思い通りに、考えた通りに進んだ事を実感し――心の底から笑った。
 そして、声高に勝利を叫ぶかのように――一発の銃声が鳴り響いた。



 放たれた銃弾に撃ち抜かれたルークは、まるで糸の切れたマリオネットのように、後へと倒れこんだ。
 ルークが倒れた事を確認し、イットもその場へとへたり込むように座り込んだ。
 微動だにしないルークを前にしたイットは、ゆっくりとこみ上げてくるものを抑える事無く吐き出した。

「――……っく、……ぁ、はは……あはははは」

 無性に、無性に笑いたくなった。
 抑える事のできないそれを、傷だらけの身体でも我慢する事無く吐き出す。
 それは単純な願いであり、単純な思いだった。
 ただ死にたくないというだけの、純粋な思い。
 例え友達を――親友とさえ呼べたであろう友を殺してでも、自分が生き延びたいというだけの思い。
 一頻り笑った後に訪れるのは、虚無感。
 全てではないにしろ、ほとんどのものを失ったという実感が、今更ながらイットに訪れ――その瞳から涙が零れ落ちた。

「……ったく、お前が死んでどうする」

 最後の一瞬、引き金を引いた瞬間、イットは全てを悟ったのだ。
 何故、ルークとイットが戦わなければならなかったのか、その理由を。
 かの騎士、ファーナを殺したイットのために。
 また、その復讐のために。
 自分を殺させる事を復讐として――イットを生かしたのだ。

「……もう、逃げないから」

 自分が犯した罪を罪と認め、それを背負い生きていく事。
 その罪から逃げるのは簡単だが、それを背負って生きていくには覚悟が必要だ。
 その覚悟を、ルークがくれたのだ。
 自分の命を犠牲にしてなお、イットを生かすために。

「他人の命を奪ったのは俺も同じだ」

 大地に寝転がるように倒れこみ、紅色の空を見上げる。
 他人の命を奪ったファーナは、より多くの人を助けるために力を尽くしていた。
 ルークは、多分この地で多くの命を救ったのだろう。
 同じように次元転生を経た身でありながら、彼が扱った魔力はあまりにも大きすぎる。
 それほどの魔力をこの世界で使えるだけの経験を、ルークは積んだのだ。

「二人分の命は重いけど――背負ってみせるさ……」

 そう呟き、イットは瞳を閉じた。



 その後、イットと呼ばれた男がどこで何をしたのかは記録に残っていない。
 ただ、一人のドミニオンの戦士が、次元侵略者に襲われる人を助けたという話が残っている。


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