• 2009.03.21 Saturday
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 夜。
 イストー岬の海に面する場所にある屋敷。
 その中の一室の窓から、一人の男――レッツェル・フェルモスは海を眺めていた。
 格好自体はどこにでも居る青年のそれだが、腰に巻かれたベルトに差されている鮮やかな緑色の杖だけが、異彩を放っていた。

「まだ、平和なままか……」

 カタカタと風で揺れる窓から、穏やかな海を見ながらレッツェルは続ける。

「儲けだけを考えるなら西に売れば良いんだろうが、向こうだと商人の連中が厄介だしな……」

 俯いてそこまで呟いて、しばしの間を置く。
 そして、顔を上げ――

「今しばらくは現状維持……だが、いつかは――」

 そう言うレッツェルの目は、自信に満ちていた。
 自分にできない事は何も無い。
 そう信じきっているかのように言い切ったレッツェルの耳に、控え目ながらも部屋の扉を叩く音が聞こえた。

「どうした?」

「お食事の準備ができました」

 それは彼の屋敷に勤めるメイドの声で、彼に食事ができた事を伝えに来たようだった。

「そうか、今行く」

 そう答え、窓に背を向けて扉へと向かう。
 カタカタと風に揺れる窓は、一体何を暗示しているのだろうか。



「まったく、厄介な事をしてくれる」

 そう呟きながら、屋敷へと続く唯一の道を歩き続けるのは赤髪のドミニオン――フィラン・エチュードだった。

「しかし、本当に大丈夫なのですか?」

「何が?」

 フィランにだけ聞こえる声で語りかけてきたイースに、フィランは足を止めて問い返した。

「侵入経路の事です。本当に、この道で大丈夫なのですか?」

「大丈夫。道は通じてるさ」

 イースの問いに、フィランはそう答える。
 フィランの答えは間違っていない。
 たしかに、この道は目的地であるところの屋敷へと通じている。
 しかし、イースが問題にしているのは、そんなことではない。
 なぜなら、今フィランが歩いているこの道は……屋敷の正面、正門に通じているのだから。

「塀に仕掛けられているのは恐らく防犯目的のものだろう。なら、人が出入りする正規の通路にまで、同じものが仕掛けられているとは考え難い。なら――」

 人通りの多いであろう正門は、その手の仕掛けはないだろう。と、フィランはイースに語って聞かせた。
 
「もし、仕掛けられていたらどうするのですか?」

「その時はその時。正面突破しかないだろ? 裏口とかが無いのは確認できてるんだから」

 一切の気負いはなく、それが実現できないとは思っていないような口調で、フィランは言った。

「戦力の程度もある程度分かってるなら、恐れる事はないだろう」

 事前に仕入れた情報は完全に頭に入っている。
 こっちが動いている事に気付かれた形跡も無い。
 それなら相手に余程大きな隠し球でもない限り、負ける事など――いや、こちらの手札を晒す事などありえない、とフィランは考えていた。
 それに、例え気付かれていたとしても、大きな隠し球があったとしても、フィランの持つ手札全てを晒す事はありえないのだから。

「さて……」

 小さく呟いたフィランが歩みを止め、遠目に見て判別できる程度に近づいた屋敷の門を見据える。
 その瞬間、場の空気が変わった。
 気付いてしまえばなんて事は無い。
 風が、止んだのだ。
 そんな変化を当たり前の様に受け入れたフィランは、

「――はじめるか」

 そう言ったのだった。



 それに気付いたのはどちらだったのだろうか。
 あるかどうかもたしかではない異変。
 それに気付いても、気付かなくても、門の番人である彼らにはどうする事もできなかったし――すぐに、彼ら向けの仕事ができたのだから。

「どうも、こんばんは」

 そう言いながら、彼らの前に姿を現したのは一人の、赤髪のドミニオンだった。
 見た目は十台の後半ぐらいにしか見えないが、そんな若者がこの場所に近づく事が自体が不審である。

「何者だ、貴様」

 威圧するように、手に得物を携えて彼らは問うた。
 その質問に対し、若いドミニオン――フィランは一歩前へと進み、

「何を分かりきった事を」

 そう言いながら、更に一歩踏み出し――

「あんた達の敵だよ」

 一閃。
 その言葉と、何かが宙を舞うのとではどちらの方が早かったのだろうか。
 金属が地面に当たる音、何かが草むらに落ちる音が聞こえ、彼ら――いや、彼は何が起きたかを認識した。
 振りぬかれたフィランの腕には抜き身の剣が。
 その前に立つ、彼の同僚の手には穂先を失った槍が。
 そして、その肩から上には何も無く、草むらに落ちた何かに目をやった彼は、首だけになった同僚を見てしまった。

「ぁ、あ、あ――……」

 声を失い、思わず一歩後ずさった彼の目に、真っ直ぐ飛んでくる一本の剣が映り――喉元に大きな衝撃を受け、仰向けに倒れてしまった。
 あっけなく倒れた二人の門番の姿に小さくため息を吐き、フィランは懐から小さな刀を取り出し、

「喰らえ《蟲食み》」

 呟きながら地面に刃が刺さるように投げつけた。
 さっくりと刃は大地に刺さり、細く、小さな穴を穿つ。そして――その隙間から褐色のワームが、一匹、また一匹と姿を現し始めた。
 ワームの姿を確認し、フィランは門へと向き直り、

「……そうだな。誰一人気付かないわけは無いよな」

 小さく笑いながら、呟いた。
 小さくながらもフィランが笑った理由。それは。鉄製の門の向こう側に十数名の気配を感じたからだ。

「楽しませて貰おうか」

 口の端を吊り上げるように笑い、門に向かって走り――その手前で、フィランは跳んだ。
 地面にくっきりと足跡が残るほどの踏み切りでの跳躍は十分な高さで、フィランの身体を門の外から内へと運んだ。
 上から降って来たことに驚いたのか、フィランが着地してから立ち上がるまでの間に行動を起こす事はなく、結果として――あったかも知れない勝機を、失ってしまった。



「……外が騒がしいな」

 食事をしていたレッツェルは手を休め、誰に言うわけでもなく呟いた。
 その言葉を聞き、側に控えていたメイドの一人が部屋の外へと様子を見に行った。
 その姿を見届け、レッツェルは食事を再開したものの、しばらくしても様子を見に行ったメイドは帰ってこなかった。
 心配したのか、残っていたメイドも主であるレッツェルの許可を得て、様子を見に行くために部屋の扉へと近づいた。
 瞬間、閉じた扉から飛び出た刃がメイドの首を違えず貫いた。

「な――……っ」

 思わず立ち上がったレッツェルの目の前で、新たに飛び出た刀身がすっと横に移動し――喉を貫かれたメイドの頭が、ゆっくりと地面に落ちていった。
 刃はゆっくりと引き抜かれ、支えを失ったメイドの身体が床に崩れ落ちる。
 そして、レッツェルの目の前でゆっくりと――その扉が、開いた。
 明かりが全て落ちているのか、扉の向こう側は暗くなっていて、そこに何が居るのかは見えない。
 やがて、そこにある何かが一歩前へと進んだ。
 暗がりから出てきたのは、赤い髪に赤い瞳の、黒いコートを身に纏った一人のドミニオンの男だった。

「こんばんは、はじめまして」

 にこやかに笑いながら言ったそのドミニオンの手には、血で汚れた剣が提げられていた。

「あぁ、これか?」

 レッツェルの視線に気付いたのか、そのドミニオンは血に塗れた剣へと視線をやり、

「あんたと話をするのに、こいつ等は邪魔だったからな」

 そう言って、その剣を動かなくなったメイドの背中に突き刺した。

「……貴様、何者だ」

「フィラン」

 ようやく口を開いたレッツェルの問いに、ドミニオンの男――フィランは簡潔に答え、こう続けた。

「『蒼の後継者』フィランだ、といえば分かり易いだろう。『碧の後継者』レッツェル・フェルモス」

「蒼の、後継者……だと?」

 その言葉は、レッツェルにとって予想外だった。
 屋敷に伝わる書物の中でも特に古いものの中にだけ存在する単語。
 レッツェルが所有する《碧緑の杖》と同格の武具を持つ存在として、その書物の中には記されていた。

「信じられないという顔だな」

 そういうフィランの手には、蒼い刀身を持つ剣が、いつの間にか携えられていた。
 それも高位の剣士が装備するブルーソードではなく、鍔の無い、真っ直ぐな刀身を持つバスタードソード。
 その剣を見せ付けるかのように、フィランは切っ先をレッツェルへと向け、

「さて、《碧緑の杖》を渡してもらおうか」

 そう、宣告した。

  • 2009.03.21 Saturday 01:56
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