• 2009.03.21 Saturday
  • スポンサーサイト
  • by スポンサードリンク

一定期間更新がないため広告を表示しています

  • - | -

 始まりの刻。

 それは物語が動き出した瞬間ではない。
 緩やかな流れが姿を変えようとする前兆。
 それが、始まりの刻。

 夢を見ていた。
 考えた故の結論ではない。
 しかし、俺は何故かそれを夢だと確信していた。
 白い石畳に、白い家……白を基調とした街が、そこにはあった。
 そんな街の一角に、赤く染まった石畳の上に、ソイツは立っていた。
 青色の髪に昏い輝きを宿した紅の瞳を持ち、口元に歪んだ嗤いを浮かべ、黒の衣装に身を包んだ男がそこに立っていた。
 その手には、血塗られた蒼い刀身を持つ剣が。
 足元には、その剣で切られたであろう人々が倒れ伏していた。

「――――」

 剣を持つ男の口が、ゆっくりと動いた。
 全ての存在を馬鹿に仕切ったように、ありとあらゆる存在を見下しているように……まったく価値の無いモノを見た時のように、そいつが呟いた瞬間――黒い魔力がソイツの身体から吹き出した。
 放出された漆黒の魔力に晒された死体は瞬く間に塵となり、風に乗ってどこかへと運ばれていく。

  この現象は知っている。
  見た事はなくても、知識として知っている。
  特定の血脈にのみ受け継がれている異能。
  その中でも最悪に等しいその血を継ぐもの達にのみ使えるモノ。
  今の現象は、その異能でしかありえない。
  男の目が、雰囲気が、その事を物語っている。

「最悪の、血族――ッ」

 俺の声が聞こえたのか、そいつの口が笑みを模る。
 男は剣を上段に構え――その剣へと、黒い魔力が靄のようなものとなって、纏わり付く。
 靄のように見えるそれは、よく見れば細かな黒い炎の破片である事が分かる。
 そして黒き炎を纏った剣を、男は一気に振り下ろした――ッ!!
 音も無く振りぬかれた刃から放たれるのは漆黒の炎。
 放たれた炎は大きな波となり、男の前方にある物全てを飲み込んだ。
 黒き津波が通り過ぎ、津波に飲まれた辺りを目で確認し――その光景に、息を飲んでしまった。
 サラサラとした塵が宙を舞っているその場所には、何一つとして形あるものは残っていなかった。
 石畳が敷き詰められていた地面は無残に地肌を晒し、黒い波に飲まれた建物はそこに舞い落ちる塵だけがそこに何かがあった事を証明するだけで、土台も、柱も、何一つ残されていない。

「――――」

 男が小さく呟いた。
 この場にはその声を聞く人間は居らず、その言葉は誰かに向けた物ではない。
 やがて、男はゆっくりと哂いはじめた。

「アハハ、アハハハハ――」

 まるで壊れたレコードのように、笑い声だけを繰り返す。
 狂々と、狂々と。延々と繰り返すかのように……


 目を開けば、枕代わりにしていた木の枝葉の向こう側に赤く染まった空が見える。
 胸の中の嫌な空気を入れ替えるかの様に一つ深呼吸をして――

「……最低だな」

 と、小さく呟いた。

「マスター……」

「大丈夫だって」

 俺の中に在るイースの呼びかけに、端的に答えて話を打ち切る。
 聞きたい事など、分かりきっている。
 俺の感覚を、知覚を通して外界を認識し、俺の精神に語りかけるのできるイースなら、あんな夢を見た俺の気分を理解する事ができる。

「…………」

 イースが何も言わないのを良い事に、先ほどの夢を意識の外へと押しやろうとし――アレの台詞を、思い出してしまった。

「全てを否定し、全てを肯定する……か」

 この言葉に、いったいどんな意味があるのだろうか。
 否定と肯定。
 矛盾しているようにしか見えないこの言葉。
 しかし夢の中のアレは、この言葉を矛盾なんてしていないかのように詠ったのだ。
 だとすると、この言葉には何か意味があるのではないだろうか――と考え、首をかぶり振ってその思考を意識の外へと追いやった。
 人がアレを理解しようとする事ほど無意味なものはないのだから。

「さて、動くか」

 内側に在るイースに告げて立ち上がろうとした俺を、

「マスター」

 イースが引き止めた。

「どうかしたのか?」

「……マスターは、今から起こす行動が、どういう意味を持つのか分かっているのですか」

 その言葉は、今までに何度も確認した事項であり――すでに結論を出したものでしか、ない。
 だからこそ、

「当然だ」

 俺は即答した。

「俺がお前と――《蒼青の宝珠》と共にこの世界に来る前から、未来は決まっていたのだから」

「…………」

 俺の言葉に、イースは答えない。

「お前には分かっていたんだろ? 俺がどのように動くのか」

 そう。イースには分かっていたはずなのだ。
 あの時、あの場所で、俺にあの記録を、あの光景を見せた時には――

「俺に仮定の未来を見せたあの時に、分かっていたんだろ」

「…………」

 沈黙したままのイースを他所に、小さくため息を吐く。
 分かってはいるのだが、どうしてここまで秘密にしたがるのだろうか。

「蒼と碧が一界にあるんだ、いずれ紅もこの世界にやってくる。そして、三つの宝珠が一界に集まるとき、必然的に戦いが始まる」

「……それが、継承戦」

「三つの宝珠の奪い合いだから争奪戦と言う方がわかりやすそうだけどな」

 ようやく喋ったイースに言い返して、歩を進める。

「でも、マスターは……」

「当然、継承戦になんて興味は無い」

 イースの言葉を遮り、大地を強く蹴って飛び上がる。
 俺がここに来た理由。それは――

「やらなければならない事をやりに来ただけなのだから、な」


 空を駆ける主に気付かれぬよう、従者は小さなため息を吐いた。
 主は気付いているのだろうか。
 従者が見せるのは結果の断片にしか過ぎない事に。
 其処に至る道は見ることができないという事に。
 気付いているのか、気付いていないのか、それは従者の知るところではない。
 それでも、従者は祈るのだ。
 主にとって、最善の未来が訪れる事を。
 そして、何事も無く■■■■と会える事を……


  • 2009.03.21 Saturday 22:34
  • スポンサーサイト
  • by スポンサードリンク
  • - | -

Comment:
Add a comment:









 
CALENDAR
SMTWTFS
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    
<< July 2018 >>
SPONSORED LINKS
COMMENT
PROFILE
MOBILE
qrcode
SEARCH
無料ブログ作成サービス JUGEM

(C) 2018 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.