• 2009.03.21 Saturday
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 その日は、朝から嫌な予感がしてたんだ。
 目が覚めたら、部屋に飾っていた花が枯れていたし、仕事で外に出たら頭上から植木鉢が落ちてきたり、仕事先では取引相手がモンスターに襲われたという連絡が入ったり……相手に怪我がなかったのは不幸中の幸いだが。
 本当に、嫌な予感がしてたんだ。
 そして今、最悪の形でその予感が現実のものとなった。

「全く、今日は厄日か……?」

 思わずそんな愚痴が零れるほど、今日は散々な日だった。
 頭上から植木鉢が落ちてくる。
 取引相手がモンスターに襲われる。
 荷物がダメになったから今回の商談はなかったことになってしまったし。
 その結果として、こちらの売り上げも少し減少してしまったし……

「悪い事は立て続けに起きるものなのかね……」

 ぼやきながらも、家に帰るための道を進む。
 実家――と言うべき場所があるのは、ダウンタウンの一角。
 仕事場になっているアップタウンからは、それなりに距離がある。
 まぁその距離を歩くことにも、治安に関しても文句はない。
 文句があるとするなら、アップタウンとダウンタウンの行き来が不便であるという事だろうか。

「ま、文句を言っても始まらないか」

 そう結論付けて帰路を急ごうとした時。
 視界の端に、ある人の姿が見えた。

  それは、この世界に居ないはずの人物。
  それは、この世界に居てはいけない人。
  それは、俺が知る中で最悪の相手。

「……」

 嘘だ、こんな場所にあいつが居るわけがない。だから気にしないで帰路を急ぐべきだ。
 理性がそう叫んでいるのに、俺の足は動かなかった。
 それどころか、そいつが見えた方向へと向き直り――その姿を、確認した。
 青の髪に深紅の瞳。
 背丈はあの時よりも高く、その身にはこの世界で手に入れることのできる黒いジャケットとズボン。
 そして腰には、あの時と同じ太刀が下げられている。

「お前、は……」

 声が、出ない。
 相手があいつだという確証もないのに、心のどこかでは確信している。
 聞くな、喋るな、今ならまだ間に合う。情けなくても良い、背を向けて早く逃げ出せ――!!
 そして、背を向けようとした矢先、

「久しいな、ゼル」

 懐かしくも忌々しい声が聞こえた。

「フィラン、エチュード……っ」

「その様子だと、俺の事は覚えているようだな」

 にやりと笑い、その男――フィラン・エチュードはそういった。

「……何のようだ。様子を見に来たわけではないだろ」

「………」

「あれか、今更になって俺を殺しに来たのか?」

「………」

「そうか、そうだよな。お前にとって、俺は邪魔者だよな……」

「………」

「だが、そう簡単に殺されてやるものか!!」

 問いかけても答えないフィランを相手に、俺は手持ちの武器を――レプリカの、レーザーブレイドを構える。
 本物のレーザーブレイドはソードマン系以外所持する事を禁じられている上、俺がソードマン系だったとしても、所持を許可されるレベルではない。
 故に、これはただのはったり。否、はったりにもなっていない。
 あいつなら、こっちの考えなんて見通しているはずだ。
 それにもし、これが本物だったとして、それを扱えるレベルであったとしても……あいつに、フィラン・エチュードに勝てる保証なんてありはしない。

「お前に殺す価値などありはしない」

 しばしの沈黙の後、フィランはそういった。

「――なら、なんのためにここに来た」

 構えを解かずに、そう詰問する。

「簡単に言うと仕事の依頼だな」

「はっ、笑わせるな。誰がお前からの依頼なんて――」

 フィランの台詞を鼻で笑い飛ばし、あっさりとその依頼を蹴ろうとし――

「お前の妹。たしか、リュールゥという名前だったか」

 その言葉に、意識が凍りついた。

「貴様……ッ!!」

「何声を荒げている。血を分けた妹ではないのだろ」

 怒りに任せ、攻撃を仕掛けたい衝動に駆られるながらも、必死になって抑えとどめる。
 そんな俺の様子を見てフィランは、

「まったく。あの時のお前はどこに行ったのやら……」

 なんて、小さく呟いていた。

「……」

「昔のお前は他人の事など気にもとめなかった。それが今では義理の妹の事が話題に上っただけでそれか。まったく、どこまで堕ちたものやら」

「お前に……お前に、何が分かる!!」

 そう叫びを上げ、無駄と知りつつも手にした武器でフィランに切りかかる。

「……分かるわけないだろ」

 渾身の一撃をあっさりと片手で受け止めて、フィランはそう言った。

「俺はお前じゃなければ、心理学者でもない。人の心なんて読めてたまるか」

 そう告げると、掴んでいた手を離し――刹那、鋭い金属音が辺りに響いた。
 カラン、と音を立ててレプリカの刀身が地面に落ちた。
 そして小さな音を立てて、フィランは振るった刃を鞘へと納めた。

「……あの時よりも弱いな」

 そう告げられた俺の腕から、刀身を失ったレーザーブレイドが地面へと落ちた。

「……何が、目的だ」

 力なく腕を下げ、フィランに問いかける。
 武器が残ってないわけではない。
 だが、勝てる気がしない。
 この世界に来てから鍛錬を怠ったわけではない。
 冒険者としての経験も積んできた。
 しかし、それでも……それでも、目の前に立つ男には遠く及ばない。

「言っただろ。仕事の依頼だと」

「生憎だが俺は一介の商人でな、お前が頼むような仕事など――」

「どうせ情報屋もやってるんだろ」

 俺の言葉を遮り、フィランはそういった。

「……」

「図星、だな」

 たしかに俺は商人稼業の傍ら、情報屋としての仕事も請け負っている。
 しかし、それは基本的に客から聞いた話などを流しているだけで、この男が望むような情報屋としての姿ではない……はずだ。

「……何の情報が望みだ」

「……フェルモス家。フェルモス家について、知り得る限りの情報が欲しい」

「フェルモス家……」

 聞き覚えのあるその名前に、俺は少しうつむいて考え込んだ。

  ――だからこそ、見逃してしまった。
  その時のあいつが、どんな表情をしていたのかを――

「東の、イストー岬に居を構えてる研究家の一族か」

「……一ヶ月。その間に、できる限り詳細な情報を頼む」

 そう言って、フィランは背を向けて立ち去ろうとし――

「待て!」

 何故か、その背中を呼び止めてしまっていた。

「まだ何か用があるのか?」

「お前は……お前は、何のためにここに来たんだ」

「仕事を依頼するためにだが?」

「違う! そうじゃない!」

 それはここに来た理由。俺と会った理由でしかない。

「お前は、お前は何故――」

 エミルの世界に来たのか、そう問いかけた俺にフィランは――

「仕事だから、だ」

 そう、答えた。
 その表情を見て、何となくだが理解できた。
 何故、この男がここに居るのか。
 どうして、俺とコンタクトを取ったのか。

「……」

「用件はそれだけか?」

「……いや、まだある」

 それは多分に感覚的なもの。
 外れていて当然であり、当たっているなんて思いもしないよな予感。
 ただ、その時はそれが正しいと確信を持てた。そんな、予感。

「お前、この世界に来たばかりだろ」

「……それがどうかしたか?」

「この町のアップタウンに入るためには入国許可証が必要だ」

「らしいな。それで?」

「三日後、今日と同じ時間にここに来い。用意しておいてやる」

「……」

 その言葉には答えず、フィランは去っていった。
 三日後、あいつは必ずここに来るだろう。
 それが罠であっても、踏み潰せると確信しているだろうから。
 そうでなくても、俺の立ち位置を確認する事ができるから、あいつはここに来るだろう。

「まずは何でも屋に掛け合って、入国許可の手配を頼むか……」

 それが終わったら、フェルモス家についての情報を集めなければならない。
 与えられた一ヶ月という期間で、どれだけの事が調べられるだろうか。

「……まいったな」

 やる気がなかったはずなのに、いつのまにかやる気になってしまっている。
 この心境の変化がどうして起こったのか、なんて事は考えない。
 あいつと会ったせいで、昔の――ドミニオンの世界にいた時の感覚を思い出してしたのだろうか。

「さて、しばらくは忙しくなりそうだな……」

 そう呟く俺の口元には、笑みが浮かんでいた……



「……上手くいった、か」

 数時間後、ようやく落ち着ける場所まで来て、小さく呟いた。
 正直なところ、交渉が上手くかどうかはわからなかった――最も、交渉らしい交渉は一切行っていないのだが。
 と、いうよりも……

「よく引き受けたな、あいつ」

 前に会ったのはドミニオンの世界。
 屋敷に侵入したものと迎撃するものという立場だった。
 その時に俺がやった事を考えれば、断られてもおかしくはない。
 そう。――を切り落とした奴の依頼を受けるなんて、誰が考えるだろうか。

「ま、良いか……」

 三日後、あいつと会った時に大体の事はわかるのだから。

「罠を仕掛けてくるか、待ち伏せか――油断を誘うか……」

 どんな手段を相手が講じてくるか、少しばかり楽しみではある。

「まぁ、どんな障害も乗り越えてやるさ」

 そう呟き、俺は小さく哂った。
 その哂いは何者に対するものなのか。
 策を講じるかも知れないあいつを相手に? それとも、標的であるところのフェルモス家を相手に?
 どちらかに対するものかはっきりとしないその哂い。
 それは、闘いを前にした戦士が浮かべる哂いと、酷似していた。

  • 2009.03.21 Saturday 02:22
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