• 2009.03.21 Saturday
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― in the Spring season ―

 春。
 桜の季節。
 始まりの季節。
 綺麗な桜を眺めながら、私は昔の――一年ほど前の事を思い出していた。

― thinking time ―

 その日、私は迷っていた。
「どうしよう……」
 目の前にあるのは一本の綱。
 頭上から地面すれすれまで垂れ下がっている、何の変哲もない綱。
 上を見上げると、そこには一つの飛空庭が停まっている。
「うーん、行くべきか……行かざるべきか……」
 その庭に上がるための綱を目の前に、私は悩んでいるのだった。

 それは、膨らんだ蕾が開くかどうかの選択。


― in the first day ―

 それは、ある日の事。
 ノーザンダンジョンとノーザンプロムナードを往復する日々を過ごして居た時の事。
 何か良い情報はないかと思って、端末のコメントリストを検索している時に見つけた、広告。
「へぇ、新装開店……か」
 アップタウンのタイニー通りに新しいお店が出た、というのがその広告の内容。
 あの辺りは人通りが多い上に、妙な人形が居るから余り近寄った事はない。
 でも――
「ちょっと、面白そうだな」
 結局、その日はノーザンプロムナードで夜を過ごし、アップタウンに戻る事はなかった。
 それでも、多分……それが一番最初なんだと、思う。

 種は撒かれ、小さな生命がここに生まれる。


― in the second day ―

 ノーザンダンジョンの中、トランプの兵隊が一杯居る部屋の前で休憩してる時の事。
「あれ、このコメント……」
 休憩の合間に開いたコメントリストには、昨日と同じコメントが載っていた。
「二日続けて、か……頑張ってるね」
 昨日と殆ど同じ内容のコメント。
 アップタウン、タイニー通りに出店した店の広告。
「面白そうなんだけどなぁ」
 コメントを見ただけで興味を覚える場所。
 そんな場所は、今までになかった。けど――
「紙がまだ集まってないから……」
 もう少し、頑張ろう。
 そして、紙を集め終わったら、この広告を出したお店に行ってみよう。
 そうすれば、きっと……きっと、楽しい日々が待っていると思うから。

 種はやがて成長し、小さな芽を出した。


― one week later ―

「やっと戻ってきたよ、アップタウン!」
 て叫んだ途端、周りから奇妙な物を見る目で見られました。
 でも、やっと紙を集め終わったんだもん。
 寒い北国を離れて、春を迎えつつあるアップタウンに戻ってきたんだから、テンションが上がってもおかしくないよねっ。
 それに、ようやく……ようやく、あのお店にいけるんだから!
「さぁ、待ってろ……」
 ……あれ?
「お店の名前何だったっけ」
 慌てて、コメントリストを開いてみる。
「……あれ?」
 パーティー、違う。
 アイテム、違う。
 情報……あれ?
「情報欄、だったよね」
 一番上から下まで目を通す――ない。
 ページを切り替え、再度上から下まで――ない。
「んー、行ってみればわかるかな……」
 そして、アップタウンのタイニー通りまで出てみるものの――
「お店が、出てない……」
 今日はどこも休みなのか、飛空庭からおろされた紐は一つもなく、ただ熊の人形がそこに居るだけだった。
「……帰ろっと」
 結局、その日はアップタウンでの買い物も行わず、私は家に帰って寝たのだった。

 種は成長を続け、小さいながらも葉をつける。


― one month later (1) ―

「ふー、今回もしんどかったなぁ……」
 あれから一ヶ月。
 桜も花開き、春真っ盛りという季節。
 アップタウンに戻る事はあっても、カタログをチェックして良いものがないか探すだけで、殆どは軍艦島で過ごしていた。
 ほとんど炭鉱の中で、熊やガブルといったモンスターと戦いながら、採取したアイテムを調理しての生活で、コメントリストを開く暇なんて殆どなかった。
 そして、ようやく――私は、アップタウンで一息つく事ができたのだ。
「んー、どうしようかなー」
 カタログでショッピングも良いし、実際に商人が出してる露店を見て回るのも悪くない。
「……よし、商人さんの露店を見て回ろうっ」
 そう決めたのは偶然。
 タイニー通りを通りかかったのも偶然。
「……ぁ」
 そして、その看板を見つけたのも、偶然。

 日々が過ぎ、小さき生命も成長を続ける。


― one month later (2) ―

 その看板を見て、私は思わず端末を操作し、コメントリストを開いていた。
「……あった」
 それは一ヶ月近く前にコメント欄から消えたコメント。
 私がアップタウンに戻った時は消えていたコメント。
 そのお店の名前は――

「どうしよう……」
 垂れ下がってる紐を前に、思わず考え込んでしまう。
 初めてコメントを見たときから一ヶ月近く。
 もう、常連と言える人たちが居ついてるかもしれない。
「うぅ……」
 皆初めてならまだしも、常連達だけの場所になってたら、ちょっと考えなきゃダメかも知れない。
 そんな事で悩む私を他所に、タイタニアやエミルの人達が次々に飛空庭へと登っていく。
「……よし、決めたっ」
 決意を固め、紐へと手を掛け――一気に、上へ登った。

 春、それは花の咲く季節。


― one month later (3) ―

 そして小さき生命も、ここで花開く。

 飛空庭に登ると、最初に目に入ったのはモーグ様式の家。
「へぇ、外はこんな風になってるんだ」
 床はレンガ造りの石畳になっており、家の前に置かれた木の箱の上には植木鉢が乗っている。
 そして、家の中からは大人数が談笑する声が聞こえてくる。
「……ちょっと、ドキドキするかな」
 ドアノブへと手をかけ、深呼吸を一つ。
 心臓は、まだドキドキしてる。
 それは不安だとか、心配だとか、そういう感情じゃなくて――
 何か、新しい発見があるような、ワクワクする事があるような、そんな感覚。
 そんな感覚を胸に、私はドアノブを捻り――その扉を、開いた。

 中の空気が外へと流れ、風で一瞬だけ目を閉じてしまう。
 そして、風が収まった後に目を開くと――そこは、丁寧に作られた家だった。
 入口と奥の方には絨毯が敷かれ、客の多くは奥の絨毯の上に座っている。
 そして皆、新たに入ってきた客へと目を向け――
「いらっしゃーい」「いらっしゃい」「らっしゃい」「こんばんはー」「良く来たね」「どうぞどうぞ、上がってー」「て、お前が言うな」「まー、気にしないでね?」「こんばんは」
 などと、口々に挨拶してくれる。
 そして、私も――
「え、と……こんばんは」
 少し、はにかみながら、そう言った。
 そんな私の前に、エミルの女の子が立って――にっこりと笑って、こういった。

 いらっしゃいませ、ふぉるとなへようこそ!


― the present ―

「りーおーんー」
「うわわっ」
 呼び声と同時に、がばっと後ろから抱きつかれ、私は思わず慌てた声を出してしまった。
「どうしたの? 何かぼーっとしてたみたいだけど」
「昔の事を思い出してたんだよ」
 そう、彼女に――エストレラに、そう告げた。
「昔って、理遠が実家に居た頃の事?」
 はてな、と首を傾げてレラちゃんがそう聞いてくる。
「違うよー、はじめてふぉるとなに行った時のことだよ」
「そっか」
 彼女は小さく頷いて、そのまま黙ってしまった。
 彼女なりに、何か思うところがあるのだろう。
「ねぇ、理遠」
「うん?」
 ちょっと真面目な声で、レラちゃんが言った。
「今、楽しい?」
 その問いに、私は迷わず頷いて答えた。
「うん、もちろんだよ!」

 春が来るたびに、小さな生命は花開く。
 まるで、桜と同じ季節に咲こうとしているかのように。
 まるで――人々に幸運を与えようとしているかのように。

  • 2009.03.21 Saturday 03:57
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Comment:
2008/04/01 4:07 AM, 理遠 wrote:
一周年ですよ、一周年!
サイトを始めてから一周年なのですよ!

ということで、日ごろの感謝を一つの形にしてみました。

そうです。某飛空庭の事です。
私が、この業界? に居るのも、居続けているのも、かの場所があるから、と言っても過言じゃないと思うんだ。

そんな、感謝の気持ちを込めて、このSSを書いてみました。

長々と書くのもあれなので、最後に一言。

皆様に、幸運が舞い込みますように。
2008/04/02 1:38 AM, Lazurite wrote:
サイト一周年おめでとー。
今後も期待してるよ。

で、こないだ正に俺が同じ場所で同じ経験したんで、その内書こうかなー、と思ってたネタを先にやられてしまった……(表現したい内容は結構違うけど)
もし書いてもパクリじゃないよ?ないよ?

それから、細かいけれど誤字指摘。
『in the second day』の2つ目の台詞、送り仮名要確認。
(誤字指摘がずっと残ってるってのもあれなんで、具体的な内容は載せないでおくね)
ECO内で伝えても良かったんだけど、今週はちょっと忙しくて入れるかわからないので……

それじゃ、また今度中で。
2008/04/04 8:14 PM, 理遠 wrote:
ラズだー、いらっしゃいーい。
あと、ありがとーっ。

あれなんだよ。多分、あれなんだよ。
ネタ被りなんて気にしたら負けなんだよ?

そして、誤字指摘サンクーっ。
速攻で訂正しておいたよっ。

では、また今度ーっ。><ノシシ
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