• 2009.03.21 Saturday
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 エチュード家に仕え始めてから、どれだけの月日が流れただろうか。
 その月日は、私が居場所を得てからと同じ時間。
 生まれ育った家に私の居場所は無く、ここで初めて自分の居場所を得る事ができた。
 だからこそ、私はこの屋敷を、エチュード家を守り続ける。
 本当の名を隠し、当主となる者に過酷な試練を与える事になろうとも。
 それが屋敷のためになると信じて……

 屋敷から数キロ離れた場所にある小高い丘。
 その上に並べて作られた三つの墓を前に、私は立っていた。
 そこに刻まれた名前は、私の恩人のものであり――仕えていた主人と、その妻たちのものだ。

「旦那様、奥方様。フィラン様は今日、継承の儀に臨まれます」

 これはずっと前から決まっていた事。
 あの日、あの光景を目にした時から決定していた事。
 それが実行される事を伝えに――そして、彼が無事にクリアできる事を祈るため、私はここに来たのだ。

「フィラン様が無事であるよう、どうか――」

 どうか、見守ってください。
 その言葉は、心の中で唱えるに留めた。
 私が言うと安っぽく聞こえてしまう、そう思ったから。

「で、何の用だ」

 報告と短い祈りを済ませ、背後に立つ男へと敵意を顕にして声をかける。

「そう警戒しないでもらいたいものだな」

 そう言って、その男は私の隣へと並び立つ。

「今日は姉の命日だからな」

 男は、左手にある墓に花を供え、その瞳を閉じて黙祷をささげた。

「そうか。それならゆっくりして行くといい」

 男にそう告げて、私は墓に背を向けた。
 この男と一緒に居ると、否応無しに敵意が溢れてくる。
 毎度お馴染みとは言え、心地よいものでは決してない。

「そう言うな。今日の用件は墓参りだけではないのだからな」

 その言葉を聞いて、私は足を止めた。

「それを言うなら、今日も、だろうが……っ」

 銃を抜きたくなる衝動を抑え、男の背中を睨みつける。
 戦って負けるとは思わないし、必ず勝てると断言もできる。
 しかし、この場所で――恩人達の墓前で、戦闘を行う事はできない。
 それは、目の前の男と旦那様の約束であり――私の、誓いでもあるのだから。

「殺したいのに殺せない。そんなところか?」

 男はゆっくりと振り返り、そう言った。

「用件を言え」

 悠々と構えている男に対して、短く吐き捨てる。
 相手の要求は毎回同じものであり――

「簡単な事だ。アレを引き渡せ」

「断る」

 即答してやった。

「人を物扱いする輩に、引き渡すわけがないだろう。それに……」

 そうして続けたのは、毎度お馴染みの文句だったが、最後に締めくくる言葉は違った。

「それに、フィラン様はエチュード家の当主だ。お前たちに引き渡せるわけがないだろう」

 その言葉を聞き、男はしばし呆然とし……そして、唐突に笑い始めた。

「何がおかしい!」

 笑い続ける男に、詰問口調で問い詰める。
 一頻り笑い続けた後、男は私の目を見てこういった。

「本当に、アレがエチュードの当主なのか?」

「それは……どういう意味だ」

 言い返すものの、その言葉に力強さはない。
 それも当然だ。何故なら――

「アレは自身の力量を証明していない。それに――」

 含みを持たせるように間を置き、男は続けた。

「アレはお前達の手に余る。そうだろ?」

「黙れッ!」

 短く叫んで銃を引き抜き、相手の額へと狙いを定める。
 怒気をはらんだ瞳で睨み――

「それ以上囀るなら、殺す」

 殺意を顕にして宣告する。
 しかし、男はさして気にした様子も無く、

「お前には無理だ」

 そう、断言した。

「純粋な戦闘では、私はお前の足元にも及ばない」

 それは事実。
 目の前に立つ男では、私を殺す事はおろか、傷つける事さえできない。
 そう確信しうるだけの実力差が、私たちの間にはあった。

「……たしかに、私ではお前を殺す事はできないだろうな」

 そう言って、ゆっくりと安全装置を解除する。

「だが、素直に引き下がるわけにもいかない」

「しかし、お前は引き金を引かない。自身の誓いがあるからな」

「……」

 男の言葉に沈黙し、数秒の間睨み合う。
 そして、私はゆっくりと銃を下ろした。

「帰れ。お前の顔など、見たくもない」

「そうか。私も従者を待たせて居るのでね、お言葉に甘えさせてもらおう」

 そう言って、男は私の横を通って丘を下っていった。
 その背を見送りながら、今ここで撃てば……などと考えてしまうが、実行はしない。
 実行したところで、大した成果は上げれない。
 例えあいつを殺せたとしても、他の奴が来るだけなのだから。

「フィラン様……」

 今頃、彼はどうしているだろうか。
 呪いの塊に呑まれて消えてしまったのだろうか。
 それとも、『蒼の後継者』となる事ができたのだろうか。
 結果がどちらであれ、私はその結果を受け入れるだろう。
 彼をあの場所に送る事を決め、実行したのは私なのだから。


 私が屋敷に戻った時、フィラン様はすでに《蒼青の宝珠》の所持者となって屋敷に戻られていた。
 私が想定していた中で最良の結末を向かえ、僅かながらに安心した。
 そして約一年後。
 フィラン様がエミルの世界に旅立ってからも、私はここにいる。
 ここに居て、屋敷を守り続けている。
 彼が戻ってくる場所を、守るために――


  • 2009.03.21 Saturday 01:44
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